後藤 太輔 (著),現代書館,2018.04
フィギュアスケート界では男女選手の交流・協力活動が多く、引退後も、コーチ、プロスケーター、振付師、衣装デザイナーなど多ジャンルで活躍している。インストラクター協会理事にも女性が多く、他のスポーツと比べ、ジェンダーバイアスが少ない競技といえる。海外では、現役選手による同性愛カミングアウト、アラブの選手によるヒジャブ着用など、社会に対して積極的にアピールする選手も多い。本書は、フィギュアスケートとジェンダーを切り口に、スポーツと社会の繫がり、2020年東京五輪パラリンピックへの向き合い方を伝える。 現役記者ならではの豊富な取材に基づく逸話が満載!
「中国と日本が政治的に緊張しても、スケート界の関係は良好です」
「日本は、スポーツがなくても幸せな国だったんだな」
「私は美しさで勝負する。それが自分だから。銀盤では私は女だと思って滑っているんです」
朝日新聞現役記者がつむぐ、スポーツと平和を愛する人から生まれる言葉たち。
1章 フィギュアスケートとジェンダー
2章 スポーツから始まる友好
3章 ぼくらに寄り添うスポーツの力
4章 社会を変えるスポーツの力
https://www.amazon.co.jp/dp/4768458319
読了後、編集者と著者のこんなやり取りが思い浮かんだ。
編「タイトル『ぼくらに寄り添うスポーツの力』? うーん、いまいち訴求力がないんですよね……。ちょうど羽生が金メダルを取ったばかりだし、第1章のタイトルを本全体のタイトルにしましょう!」
著「え……。でも、フィギュアスケートの話は全体の3分の1くらいしかありませんよ。それに、僕がこの本で訴えたいのはスポーツが社会をよくする力を持っている、ということであって……」
編「でも、ぶっちゃけこのタイトルでは売れませんよ。売れなきゃ、あなたの主張が誰にも届かない、ということです」
著「……」
編「わかりました! では元のタイトルを副題にしましょう。それで手を打ちましょうよ!」
と、いうわけで、タイトルは全体の4分の1もない第1章だけの内容であって、その後もぽつぽつとフィギュアスケートの話も出てくるものの、全体のほぼ半分はアメリカのアメフトや野球選手の社会貢献活動について紹介する内容。それはそれで興味深く読んだし、著者は朝日新聞記者としてツイッターでフィギュアスケート関連のツイートもしていて、知識もあって信頼性の高いネット記事なども執筆しているので、たとえタイトルどおりの内容でなくても許せる。
ええ、たとえ期待どおりの内容ではなかったとしても(怒)。
もっとも興味深かったのは、日本におけるフィギュアスケートの歴史を簡単になぞっている部分でした。
小塚祖父が太平洋戦争中に満州でフィギュアスケートに触れ、帰国してから名古屋で広めて、ロシア語もできたことからフィギュア大国だった旧ソ連とのコネクションを作って名古屋のフィギュアが強くなっていった話は知っていましたが、都築先生が松戸にあったリンクでやはり旧ソ連とのつながりを築いていたことと、日本人で最初にクリケットに行ったスケーターだったことなど、新たに知ったことでいろいろ腑に落ちました。
クリケット(というかカナダ)に行く選手はあまり聞かないですが、本田岳史と織田信成がカナダに行っていたのは聞いていて、いろいろな条件があったのでしょうけれど「名古屋以外」の選手がカナダに行ってるのだなぁと思っていて、つまり都築先生ルートだったのかしら、とか。
こういう日本フィギュアスケートの歴史や師弟関係の系譜と海外とのコネクションみたいなの、どこかでまとめられてないかしら。
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