Black Bread [ラテンビート映画祭]
2011年9月17日 映画鑑賞記録第3紀(09.02~)BLACK BREAD(英題)
監督:アグスティ・ビリャロンガ
出演:フランセスク・コロメール、マリナ・コマス、ノラ・ナバス
2010年 / ドラマ / スペイン・フランス / 113分
2011年ゴヤ賞作品賞・監督賞・主演女優賞ほか(全9部門)・サン・セバスティアン国際映画祭主演女優賞
舞台はスペイン内戦後のカタロニア。11歳の少年アンドレウは、森の中で崖下に転落した馬車を見つけ駆け寄るが、父親の遺体のそばに倒れていた幼子は「ビトルリア」と、謎の言葉を残して息絶える。「ビトルリア」とは森の洞窟に住むと噂される幽霊の名前だ。警察は、事故は何者かに仕組まれた殺人と断定。アンドレウの父ファリオルに嫌疑がかかる。間もなくアンドレウは農村に住む祖母の元へ身を寄せ、父ファリオルは逃亡。父の無実を信じる純粋なアンドレウに、従妹のヌリアらは、大人社会の現実を話して聞かせる。
フランコ政権による厳しい弾圧が行われていた冬の時代を一人の少年の目を通して描いたサスペンス。2011年のゴヤ賞最多9部門受賞ほか数々の映画賞を受賞し、スペイン本国で大ヒットした。
配給:アルシネテラン 2011年、銀座テアトルシネマ他にてロードショー
公式サイト & 予告編 : http://pannegro.com
(映画祭サイトより)
冒頭の、馬車が崖下に転落するシーンが陰惨で、一気に映画に引き込まれる。
スペイン内戦後の弾圧期を舞台にしているものの、社会的な背景は直接描かれない。右派(勝ち組=白パン)と左派(負け組=黒パン)との差別や抜け出せない貧困、内戦の傷跡が大人たちを歪ませ、過去を隠すための嘘や大人の都合で振り回される生活が、子どもたちを傷つけていく。
馬車の転落事故が事故ではなく、過去に起こったとある事件が引き金になっていることが次第に明らかになり、そのためにさらに悲劇が繰り返されるあたりは、少し横溝的な雰囲気もある。土俗的な、ムラ社会的なところもあるし。少しずつ事件が明らかになっていく様は、まさにどんどん森に踏み込んでいく感じがする。
うっそうとした森が世界を取り囲んでいるところは「パンズ・ラビリンス」を思い出させる。
あちらは少女が辛い現実を幻想の国に見立ててそこへ逃げていくけれど、こちらの作品では少年が現実を目の当たりにし、人の皮をかぶった魔物が跋扈するような現実の世界に踏み込んでいく。
主人公のアンドレウは、曇りない目で大人たちのすることを見つめる役で、子どもらしい可愛らしい少年ではないけれど、真っ直ぐで、何もかもを見通そうとする意思の強さがある、不思議な眼差しを持っている。
主人公を演じたフランセスク・コロメールは、学校に来たオーディションを、ほとんどみんなが受けるから一緒に受けてたまたま選ばれたのでもともと役者を目指しているというわけではないそうだ。
この映画に出てくるのはほとんど、何か後ろめたいことがある大人や虐げられた子どもばかりだけれど、唯一きれいな目をしているのが、結核で教会の敷地の一角に隔離されている人々の一人の青年。
主人公は現実を知るにつれてどんどん心を閉ざしていくのだけれど、この浮世離れした青年にだけは心を開く。けれど、この青年もいずれ死ぬことが暗示されている。
(モードチェンジ)
で、ゲイテイストは過去の事件に絡んでいるのだけれど、それよりもアンドレウと青年との関係がドキドキしてしまいます。
なんといっても青年が美しくて。青年からは「近づいちゃいけない(病気がうつるから)」と言われるのに、気になって仕方がなくて迷ったり不安があったりすると会いに行ってしまうあたり、いくらでも邪推できそう(笑)。
ところがこの青年役については公式サイトにも名前が出てない! だめじゃん公式。わかってないなぁ。
ま、この美青年のことは置いておいても、様々に想像力をかきたてられる、いい映画でした。
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